「事業」がキーワードですね。事業を継続させるということは、一貫性と革新のバランスだと思います。国土地理院は一貫して地図基盤を刊行し続けていること。そして、イノベーションを担うところは、我々のようなIT企業がやるべきと考えています。IT企業はこれからの社会インフラのど真ん中になっていきますし、課題解決インフラという意味での一貫性や継続性もどんどん高まっていると思います。
そうですね。公共機関だと、どうしてもプロジェクトごとに動いてしまうことになるので、企業と納期のある契約をして、成果を納品いただいたらおしまい、となってしまいます。このカルチャー自体は調達の制度に起因するもので、簡単に変更することはできません。しかし、だからこそ、“地図について継続性のある事業を通じて社会課題の解決を行なう”プレイヤーが地理空間情報の活用シーンに入ってきてもらうことで、納期のあるプロジェクトベースのカルチャーの短所を克服できればなと。
継続性のある社会課題の解決、まさにSaaSの考え方ですね。一度ご購入いただいたら終わり、ではなく、ご利用いただいている間にもサービスが日々進化していく。
そうですね。先日国連オープンGISイニシアティブの活動を進める中で、こんなやりとりがありました。
「これまでアクセストークンなしでの無料使用が可能であったサービスのライセンスが変更され、アクセストークンが必要となった。アクセストークンを使うように追従すると、利用量が多くなれば支払いを行わなければならなくなる可能性がある。無償でできる範囲内に確実に収めるために、旧バージョンを使い続けることが可能であるがどうするか?」
「いや、必要な良いサービスにはお金を使って問題ない。高度なサービスならばコストもかかるだろう。自分たちで作れないものは買った方が良い。」
こうしたやりとりを聞いて、国を跨いだ場合のカルチャーの違いを非常に感じました。日本人は真面目過ぎて、「より安い方が良い」の原則から要求仕様を細かく調整して見積書を何度も発行してもらったり、仕事の形を整えるための仕事をする傾向があります。そのこと自体が悪いわけではないのですが、そういった仕事にリソースをかけ過ぎた結果として、本質的な調査・検討・判断に必要なリソースを回さずに済ましてしまう傾向もなしとはしません。結果として、手続き的には完璧だけれども、効率が悪い仕事が生き延びていることがあります。
弊社も昔、国土地理院から地図データの制作などを受託していた際、数値地図など、デジタル化された有益なデータはたくさんあったけど、活用プロジェクトが分かれすぎてしまっていて…。大方針はあったと思いますが、それぞれのプロジェクトの方向性が微妙に異なっていて。しかも入札案件で、「来年はうちが制作するか分からない」となると、その時の仕様書通りに作るしかなくなってしまっていました。
新しい発想とか、長期的な視野というものを、一般競争入札という形式の中で活かしていくことは至難の業です。一般競争入札の受託開発業務を監督し、最終的には納品をいただく中で、「今年できなかったけど、来年やりたい」と改めて来年度の改良仕様を準備しても、実際に来年度に手続きが終わったタイミングでは、発想してから既に1年程度が経過してしまっています。
海外では官公庁も含めて、「サービスに対して対価を支払う」という考えが日本よりも浸透しているように感じました。日本も直近ではクラウド・バイ・デフォルト原則を取り入れましたが、数年使用することを前提として固定費用をかっちりと払うという形から“必要なとき、必要な分だけ”支払う形に切り替えた方が、傾向としてはコストが安くなりますし、継続性も高まり、利用するサービスのクオリティも一般的には高まります。
今ちょうど考えているのが、有事の時の情報共有インフラ、自治体向けの災害時復興支援サービスとして、UPWARDをホットスタンバイ(※)SaaSとして利用してもらうことです。今年の1月に、内閣府の地方創生SDGs官民連携プラットフォームで僕らのクラウドサービスを活用した被災地支援事例が優良事例として認定され、この分野をもっと拡げていけないかな、と模索しています。
例えば国土地理院の提供しているデータを有事の際にいち早くUPWARDへ連携して、すぐハザードマップや復興支援マップとして使えるようにするなど、災害に耐えられるITインフラとして普及出来たら、お互いの価値共創のカタチとして理想的ではないでしょうか。
(※)ホットスタンバイ:有事の際にいつでも活用できるように待機していること
とても良いですね。国土地理院はデータで継続性を重要視していますし、ホットスタンバイのSaaSということは、サービスの継続性を重要視されているということだと思います。ユーザーとしては、主体的に継続性を確保しているプレイヤーのサービスを組み合わせれば安心です。
日本人の作る組織は、どうしても縦割りになりがちです。縦に割って、切ってしまうことで、どうしても1社のサービスだけですべてをカバーしようとしてしまう。そうではなくて、例えばご提示いただいたアイディアのようにして、データ・インフラとアプリケーションの壁を超えて、それぞれオーナーシップが確保されたものを繋いでもらっていくことが重要かと思います。
先ほど申し上げた国連に代表されるマルチセクター連携モデルや、クラウド・バイ・デフォルトによって、こうした壁を突き抜けていく、ということが出来れば、災害大国日本における成功モデルとして海外に発信できますし、そこからフィードバックも得られます。色んな事を見てきた人同士で異なるソリューションを出していき、そこから新しい価値を生んでいきたいですね。
仰る通りですね。公共機関のクラウド・バイ・デフォルト原則におけるSaaSへの移行が、こうした縦割りをなくしていく突破口になり得ると僕らは考えていますし、本気でそれを実行していければと思います。
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